団地リノベーションは立地や環境面でのメリットが多く、リノベーションでも人気があります。一方で団地ゆえの注意点もあります。今回は実際に団地リノベーションをした施工現場から注意点と、住んで2年が経った今、実際の団地の暮らしについてお話を伺いました。
上の画像は解体後の全てがむき出しの状態です。下の画像が同じ角度のAfterです。
2年経過しているとは思えないほどの状態の良さですね。団地リノベの注意点を一つずつクリアすることで実現できる仕上げになっています。
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もくじ
間取りBefore/After
今回の事例の間取りです。(左:Before/右:After)大きな変更はないように見えますが、玄関から土足で入れる土間空間や幅広の廊下、トイレと洗面所を一つにして空間を広げ、実際の印象はガラリと変わっています。LDKと洋室の間には耐震壁がありますが実際はどのように壁があるのでしょうか。
実際の「団地リノベ」の注意点を画像を交えて見ていきましょう。
1.壁を動かすことができない壁式工法
リビングから寝室を見た画像です。壁を撤去できないということは、一つの大空間を造りたいという場合にはネックになることがあります。逆に空間は繋がりつつもそれぞれの機能を独立させたいという場合や、今回のように素材感を楽しむ部分と捉えると気にならなくなるようです。
例えば今回の現場では
「空間がしっかり繋がっているので梁・壁は全く気にならないと聞いています。壁のコンクリートの粗々しさや配管との武骨な組み合わせが気に入っているそうです。また、もともと53.87m2とコンパクトな面積ではあったので大がかりな間取り変更は必要なかったので壁についてのデメリットはあまりありませんでした。一方で施主様のご要望が『四角い空間』という、どこをどう使っても良いようにフレキシブルな空間と、ドアはいらないシームレスな空間をご希望だったので、できるだけ壁を取り除き、建具も最低限必要な1枚のみとしました。」と施工責任者。
こちらが、同じ角度からの施工後(2年後)のお住まいの画像です。壁でリビングと寝室と緩やかに仕切りながら、それぞれ独立した空間としても過ごすことができます。テレビは必要なく、プロジェクターで視聴が可能とのこと。プロジェクターでは好きな時に、好きな場所で、好きなように見ることができるのが良いそうです。
2.浴室の防水・リフォーム形跡の問題
こちらは実際の解体時の画像です。
団地の浴室は、在来工法といってユニットバスではなくモルタルやタイルで仕上げる工法であることが多いため、リフォームの際にはそれを壊さずに上からまた同じ在来工法で重ねて施工することがあります。そうすると、浴室がどんどん狭くなる他、強度にも不安が出てきます。また竣工時の防水層は最下段にあり防水性能を確認することもできません。長い年月をかけて劣化が進んでいる可能性もあります。
今回の現場では
「古い建物なので現調(現場調査)に時間がかかったのですが、状況を見て打ち増しであることがわかったので、今回は竣工時躯体まで解体することにしました。竣工時の防水層を壊す作業が必要だったので管理組合とも交渉が必要で、最初は断られましたが丁寧にご説明し、許可を得ました。打ち増しのほうがコストも作業も楽ではありますが、品質・耐久性を担保するにはこのタイミングがベストと判断しました」
3.浴室排水の問題
築年数の古い団地の場合、排水は床スラブ貫通配管といって床からダイレクトに伸びていることが多くあります。このスラブ(コンクリート床)
に埋められている配管のジョイント部分が肝で、ここが壊れてしまうと、浴室からの排水管と接続がうまくいかずに漏れの原因となってしまうわけです。そのため解体時に繊細な作業が必要とされます。
こちらが、スラブ(コンクリート下地)にウレタン防水を施した状態です。空間も広くなり、防水も整いました。こちらにユニットバスを設置しました。
今回の現場では
「団地リノベでは、ユニットバスはサイズやお風呂の形状から難しいと言われているのですが、痒いところに手が届くユニットバスがあり、それを採用しました。ユニットでは水漏れの心配はまずありませんが、長年の結露などで徐々に湿気が溜まる可能性は残ります。このように防水を整えることでその不安も払拭できます」
4.断熱の問題
ー1)床の断熱
団地はもともと断熱材を入れていないことも多くあります。断熱材は熱だけでなく防音効果もあるので、可能な限り断熱材を入れると快適性能がアップします。
画像)床断熱
今回の現場では
「このリビングのグレーの床材「フレキシブルボード」は暑さや冷えをダイレクトにキャッチする素材なので、床下に断熱性能の高いグラスウールを敷き詰めました。これによって床下からの熱に左右されにくくなります。施主様からは『夏でも風が抜けるのでエアコンなしで過ごしている』と聞いています」
ー2)壁の断熱
「トイレ&洗面室と寝室を仕切っている壁にも断熱材を入れています。トイレ&洗面室は脱衣所も兼ねているので断熱効果を上げることと、トイレの音が軽減される効果もあります」
画像)壁断熱
5.天井の問題
団地の最上階でダイレクトに熱を受ける室内環境のため、既存はカネライトフォーム+幕天井仕上でした。(画像は幕を取った状態)
天井材に採用したのは、カチオン系樹脂モルタルです。モルタルはひび割れなどのリスクが高く、天井の仕上げ材として採用されるのはとても珍しいケース。しかし2年経ってもひび割れもなく、美しい状態を保っています。
今回の現場では
「施主様がアメリカンビンテージ感のあるインダストリアルテイストをご希望で、モルタルのリスクをむしろ歓迎されての採用でした。そのひび割れが良く、待ち遠しいとのことです。とはいえ、施工としては最善を尽くすことが使命なので極力ひび割れが起こらないよう丁寧に施工しました。採用したカチオン系樹脂モルタルは通常のモルタルに比べて吸着力が強いため収縮に強く、耐久性があります。天井材としては珍しいですが、既存断熱材の性能を維持するために採用しました。
このカチオン系樹脂モルタルは、厚みを選べるラインナップがそろっていて、断熱材の継ぎ目の部分には厚みの付く材料を使用して、その上から天井全体に薄く施工できるものを使いました。天井の正方形の模様はそのためです。施主様のご希望で、あえて均一にはせずにムラ感を楽しむ仕上げになっています」
6.現場のこだわり
例えば、今回の現場では
「採用したフレキシブルボードという床材ですが、このビスの位置と間隔を全て均一になるように全て墨出ししています。またビスの頭を1ミリ沈むように位置を決めて施工しました。そうすることで、床に引っ掛からずにかつ凸凹感も少ない仕上がりになります。」
また、美術大学出身の施主のHさんもこういう緻密な作業が大好きだそう。「全てのネジ山を見たけれども、一つとしてつぶれたようなものが無く、気持ちのよい空間を造って貰いました」とのこと。
7.団地リノベーション。住んで2年後の暮らし
施主のHさんに2年経った暮らしについて伺いました。
「控えめに言ってとにかく最高です。デザイナーさんが私のニュアンスから汲み取って、形にしてくれる力があって、コストも常に意識して全体のバランスを整えつつこんな暮らしがいいなというのを叶えてくれました。やりとりが密で、私はとにかく希望を伝えると、それがカタチになるという作業で、そのプロセスも最高に楽しかったです。施工になると現場で調整することも出るのですが、施工担当の岡野さんのきめ細かな感じも安心でした。2年経った今もアフターで引き続き、『どうですか?』とか『不具合ないですか?』と点検だけでなく日頃のお困りごとにも気を配ってくれて、『完成して終わり』ではなく『始まり』なんだなとじんわり感じています」
8.まとめ
団地は隣棟との間隔が広く贅沢な敷地だったり、駅から近いのに価格が魅力的などのメリットが多く人気があります。そのメリットを存分に堪能するには、今回見たような注意点をクリアにすることが大切です。また、団地ごとに問題が異なるケースもあるので、一つ一つを丁寧に対応する業者や、具体的な解決策を持っている業者に依頼すると良いでしょう。
施工・アフター担当|空間デザイナー岡野潤
団地リノベーションに限った事でありませんが、築年数が旧い建物では、できる限り新しくすることを強くお薦めしています。
構造上、変えることが出来ない箇所はありますが、目に見える箇所を新しくしても、目に見えない箇所が古ければ、快適に住めるとは考えにくいからです。長く住むことを考えますと、耐久性をしっかり考える必要があります。
耐久性には、物としての耐久性と、使用することでの耐久性があると考えています。本文の中には書き込まれていないですが、今回の団地リノベーションでは分電盤も変えています。団地の多くは単相2線式ですが、これを単相3線式へ変更しています。これにより30Aまでしか使えなかったのですが、40Aまで使用できるようになっています。長く楽しく快適に住んでいただけるように心がけて施工しています。
また、携わった職方一人一人がお施主様の事を考えて工事に取り組んでいます。
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