モルタルはゴムや鋼材のような展延性(伸びたり広がったり柔軟に形を変える性質)がほとんどないため、歪みによってひび割れが生じやすい建築材料です。モルタルのひび割れの多くは乾燥収縮によるものと言われています。モルタルから水分が蒸発する際に体積収縮によって変形が起こり、その歪みに耐えられずひび割れが起こります。
施工時に水分量を極力減らすことや、生コン打設時に密に締め固めることで乾燥収縮によるひび割れを生じにくくすることはできますが、現段階ではひび割れを確実になくす方法は無い、というのが一般的な見解です。したがって、ひび割れが発生した際には、程度にもよりますが補修材を用いて補修することになります。
この記事では、モルタルのひび割れに対する補修材について、補修工法を踏まえながらご紹介します。
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ひび割れ程度に対応したモルタル補修工法と補修材
モルタルのひび割れは、ひび割れの大きさにより適用する補修工法が違います。日本コンクリート工学会発行の「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針(2013)」によれば、モルタルのひび割れ対策として「ひび割れ被覆工法」、「注入工法」、「充填工法」の3種類の補修工法が挙げられており、適用可能なひび割れ幅を、それぞれ0.2mm以下、0.2~1.0mm、1.0mm以上としています。
「ひび割れ被覆工法」と補修材
「ひび割れ被覆工法」とは、ひび割れ上部に被覆塗膜を作ることでひび割れを補修する工法で、幅0.2mm以下の微細なひび割れに適用できます。ひび割れの上部に塗膜弾性防水材やポリマーセメントモルタルといったモルタル補修材を適用していきます。
簡易な工法ですが、ひび割れを根本的に補修する工法ではないため、ひび割れによっては時間経過とともに進行して傷口が大きくなってしてしまうこともあります。そのため、用いる補修材は、ひび割れが進行しても対応できるよう、弾性があり防水性のあるものが適しています。
「ひび割れ注入工法」と補修材
「ひび割れ注入工法」は、0.2mm以上1.0mm未満のひび割れに適用できる補修工法です。ひび割れ部分にエポキシ樹脂やアクリル樹脂といった樹脂系接着剤またはポリマーセメントモルタルといった補修材を注入していきます。こういった接着性のある補修材を注入することで、構造躯体との一体化が期待できます。また、注入材料でひび割れを充填することで、コンクリート内部を外部刺激から守ることができます。
ひび割れからモルタル補修材を注入することで、大きな補修効果が期待できる一方、表面のひび割れ幅がところどころ狭くなっていると、構造体に上手く注入できないといった問題もあります。こういった場合には、注入箇所の入口をやや削孔して確実に注入できるようにするといった対策が取られています。
「注入工法」のもう一つの問題点としては、どこまで注入できているかが目視では確認できないことです。注入材に蛍光顔料を混ぜて、注入後にコアを採取することで間接的に判断する方法が取られていますが、最近では超音波による非破壊的な検査手法も研究されています。
「ひび割れ充填工法」と補修材
ひび割れの大きさが1.0mm以上のものに対しては、「ひび割れ充填工法」を適用します。この工法では、ひび割れに沿って10mmの幅でU字型に切れ込みを入れ、この部分に補修材を充填していきます。ひび割れに動きがある場合は、補修材としてシーリング材や可とう性エポキシ樹脂を使用し、動きがない場合はポリマーセメントモルタルを使用します。
ひび割れに充填していくため、モルタル補修材と接着面に十分な接着力が得られるよう、下地処理を綿密に行う必要があります。また、ひび割れの状態に対応した補修材を選定することも大切です。
DIYで使えるモルタル補修材
モルタルのひび割れ補修は、程度の大きいものはプロの業者に任せた方が無難です。ひび割れは単純に表面だけの問題であるとは言えず、ひび割れによって内部の鉄筋コンクリートが錆び付いている可能性が否定できない場合もありますから、そういったことが懸念される場合は迷わずプロに相談するようにしましょう。
また、ひび割れによって漏水が起こっている場合は、アクリル樹脂やウレタン樹脂といった水に強い樹脂系補修材を用いる必要があるため、水に弱いモルタル系補修材は使えません。この場合も信頼のおけるプロ業者にひび割れの調査から確実な止水工事まで依頼する方が安心できます。
ひび割れ幅が小さく傷の浅いものならDIYで補修を行うこともできます。DIY用の補修材には、接着力の高いポリマーセメントモルタルを使うといいでしょう。また、スプレーを吹きかけるだけで補修できるスプレー式のモルタル補修材もあります。スプレー式であればコテで手間をかけて塗る必要がないため、簡便に補修ができます。
DIYで補修する場合は、ひび割れの状況を見極めながら、適切な補修材を選択すると良いでしょう。
まとめ
モルタルのひび割れ対策は、ひび割れの大きさや深さにより適用できる補修工法が変わるため、用いるモルタル補修材も変わります。DIYで補修できるか、プロに任せるかの判断も大切です。迷ったらまずは相談できると安心です。
参考
・日本コンクリート工学会発行「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針(2013)」
・一般社団法人セメント協会「セメント系補修材料の基礎知識 ~ひび割れ注入工法と断面修復工法を中心に~」
・農林水産省「アルカリ骨材反応」