朝出かける前のお支度や、入浴前後、夜寝る前の歯磨きに、毎日使う洗面所。
また、食事の時だけでなく、一日の中でも過ごすことが多いキッチン。
そんな毎日過ごす場所に、お気に入りのアイテムが一つでもあると、
何気ない日常が瑞々しいものになりませんか?
今回ご紹介するのは、水回りにおける世界のトップメーカー、創業147年という「KOHLER社」。
かのマリリンモンローが入ったという話や、今や有名ホテルの多くでも採用されているというラグジュアリーブランドです。
そんな、ハイクラスな印象が強いKOHLER社ですが、意外な歴史があったりも。
今日は、アメリカブランドならではのこだわりから今後の展開まで、営業担当の増井さんにお話を伺いました。
―いきなりですが、増井さんにとって、KOHLER社は一言でいうとどんな会社ですか?
「アンバランスで面白い会社ですね」
アンバランスとは!
―どういったところにアンバランスさを感じられますか?
「デザインと機能のバランスが日本の感覚と全然ちがうんです。
日本では当たり前にある機能がなかったり、デザインに凝りすぎたり…
例えば、タッチレス水栓のセンサーは見えやすいところにつける方が
使っていただきやすいのですが、デザインの美しさを重視して
どこにセンサーがあるのかわからないような裏側につけたりするんですよ。
営業担当としては、つっこみたくなるような時もあるのですが、
機能面やニーズにとらわれない、逆に日本人にはない発想で製品が生み出されていくので、
こういったところもKOHLERらしさだなと感じます」
そんなアンバランスも味だという増井さん。
世界中で愛されるブランドになるまでにはどんな軌跡があったのでしょうか?
創業147年という歴史を見ていきたいと思います。
バスタブの始まりは、馬の飼葉桶にネコ足を付けたこと!?![](https://hags-ec.com/column/wp-content/ewww/lazy/placeholder-1200x676.png)
![](https://res.cloudinary.com/https-hags-ec-com-column/images/f_auto,q_auto/w_1200,h_676/v1614929723/img20b7h0822_1/img20b7h0822_1.jpg)
ーKOHLER社はもともと農機具を生産していたとのことですね。
「はい。もともと、すきやくわなどの農具や、装飾用の馬具、あとお墓の十字架などを鋳物で製作していました。アメリカのウィスコンシン州で、オーストリア系移民・ジョン=マイケル=コーラー氏によって誕生し、農機具を生産する小さな工場が始まりだったんです」
ー農機具から、バスタブとはフィールドが大きく違いませんか?
「実は、その農機具の一つである”飼葉桶(豚や馬の餌入れとして活用)”に、4本の脚を加えてバスタブとしたことが始まりなんです。当時、高価だった浴槽に代わるものとして、飼葉桶にホーロー加工を施したということです」
ーもともとは、飼葉桶だったんですか?!
「当時のカタログでは、『馬の飼葉桶 兼 豚の餌入れに足を4本つけるとバスタブになります』
と紹介されていたそうです。
これが、KOHLERの代表的な作品「猫脚」の鋳鉄ホーロー浴槽の原点です」
ー発想が柔軟ですね。異なるフィールドからの参入ですが、ビジネスとして成功した理由は?
「創業者のジョン=マイケル=コーラーは、オーストリア系移民なんですね。
そのルーツはドイツの精巧な技術力にあったことが一つあると思います。またその時、世の中に出ていたバスタブが高価だったことも理由かと思います」
ー日本には、どのタイミングで輸入されたのでしょうか?
「45年程前に入ってきました。約30年前に、日本で輸入住宅やアメリカの車がブームになった時代があったんです。
当時、日本のそういった輸入住宅などで、よく取り入れられるようになりました」
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全方位へのこだわりが、魅力に
ー増井さんから見たKOHLER社の”魅力”を3つ教えていただけますか?
1.「売れるもの」ではなく「作りたいもの」にこだわる
「KOHLER社は、創業から『売れるものを作るのではなく、作りたいものを作る』
というコンセプトを大切にしてきています。
例えば、トレンドがシンプルで取り入れやすいものであれば、それは作りやすく売れやすい。
商売ですから、売れやすいものを生産するのが普通ですよね。
でも、KOHLER社は『売れ筋』よりも『自分たちにしかできないことをやろう』
という考えをずっと変えずに今までやってきているんです」
ー具体的なエピソードがあれば教えてください。
「売れる商品を作るわけではないので、新商品ができた!と言っていたのに、
すぐに廃盤になってしまうなどの失敗もよくあることです。
営業としては困ることもありますが、
こういう時に、『売れるか売れないか』を主軸に置いていない
KOHLER社の本質的な部分がでているなと思うんです」
ーどういったデザインが主力なのでしょうか?
「クラシックデザインもひとつの特徴ですね。
例えば、右と左にハンドルがついたWハンドルのデザインです。
これは住宅事情の違いも背景にあるのですが、
アメリカでは100年前や200年前の家がそのまま残されることが多いので、
内装を残したままリフォームされる時に、モダンなデザインだとやはりマッチしないんですよね。
だから今でも毎年、クラシックな新作を提案し続けています」
2.徹底的にこだわられた素材
「大量生産をするなら、効率やコストパフォーマンスの良いアクリルやポリエステルとなるのですが、
素材にこだわるKOHLERは、真鍮無垢の素材を削り出しで使っていたり、洗面ボウルを作るのに釉薬(ゆうやく)を作るところからこだわったりして、手を抜きません。
世界中で製造する原材料を統一することにもこだわっています。
工場が世界で56拠点あるので、品質の維持がとても重要になってくるのですが、
アメリカのウィスコンシン州で使われている素材を、アジアの工場でも使うなどクオリティを統一しています」
3.他人と違うことにこだわる、アメリカ文化の特性
「KOHLER製品は、同じ商品でも20種類ほどの色展開があるなど
カラーへのこだわりがとても強いメーカーです。
KOHLER社が生まれたアメリカは、「人と同じものは絶対に使いたくない!」という国民性があります。
同じアイテムしかなくても、せめて色は違うものをとか、そういう文化があるんですね。
なので、一つのモデルでも色展開が豊富になるのです。
もう一つは、堅牢さです。中古住宅に住み替えることが一般的なアメリカでは、壊れにくいことも重要なポイントです。
この点でもKOHLERの製品は丈夫に出来ています。
その分重くなったりもしますので、輸送時と施工時の業者さん泣かせの部分もあるかと思います。設置後のデメリットはありません。
ちなみに、ヨーロッパは、シャープさやシンプルさに重きを置く傾向があり、
アジアは、発展途上の国もまだまだ多いのでコスト面が重視されます。
日本はずばり、機能性重視と言われています。シャワー一つをとっても、シャワーの出方、温度調整、ミスト機能など色々ありますよね。
面白い!そんな背景を知ると、選ぶのが楽しみになりそうです。
ー特にどういった色展開が特徴的ですか?
「赤・黄・青・・・など、ただただ色展開が多いのではなく、
しっかりとその時々のトレンドカラーを研究して取り入れられています。
例えば、今だとスモーキーカラーやソルティーカラーが流行っている時代ですが、
そういったカラーのインテリアや他のパーツと合うように展開されているんです。
日本では、蛇口ハンドルは銀色、洗面ボウルは白だという固定概念が昔からありますが、
KOHLER社では洗面ボウルのホーローが20色、水栓も10色ほど展開があるので、
組み合わせを選ぶのが楽しくなりますよ」
丈夫で永く使える、そして色選びを楽しめるのが、KOHLER社製品の大きな魅力なんですね。
選ぶ楽しみを、自分だけのオリジナルの空間を
「私自身、数年前に家を建てたのですが、せっかくの注文住宅なのに
洗面ボウルの選択肢が3つしかなくて、ショックを受けたのを覚えています。
注文住宅は全てが自由なイメージがありますよね。でも、施工する業者さんが得意かとか、仕入れルートがあるかとか、施工経験があるかとかで、選べないものが多いのが現状でもあると思うんです。
コストや機能面、効率も大事だけれど、
家が出来たあとの生活には、機能性だけじゃなく、好きなものがある空間とか、
手入れをする楽しみがあるとか、そういうちょっとしたワクワクがあると良いと思うんです。
そういうことに想いを馳せながら、選ぶ楽しみをもっと知ってほしいと思うようになりました」
―輸入品の完全オーダーメイドとなると
ハードルが高いように思うのですが…
「確かに、輸入品なので規格など確認することはあります。
しかし30年前のブームから日本でも実績が増えたことや、
近年ではオンリーワンの住まいへのニーズの高まりもあって、以前に比べると採用頂きやすくなっていると思います。
それでも、ハードルが高いと感じる部分もあるかと思います。
そんな時の一つの裏技としては、
実際に、完全オーダーメイドにするのではなく、”水栓だけ”など一部だけ取り入れることです。業者さんもそれならというラインがあると思うので、一緒に考えて貰える業者さんとパートナーになると、楽しみが増えるのではないでしょうか」
KOHLER社を代表する商品
そんなKOHLER社の魅力が詰まった商品を紹介していただきましょう。
・Kelstonケルストン 洗面用水栓 / Treshamトレシャム 洗面用ボウル
「これぞKOHLER!という商品は、このクラシックな組み合わせです。
発売と同時にアメリカで大ヒットし、あまりにも人気だったため
一時期、輸出が停止されるほどでした」
―大ヒットした理由は何かあるのでしょうか?
「この洗面ボウルは、“娘専用の洗面所”というコンセプトで作られていて
可愛らしいサイズ感がとても人気です」
―娘さんのための洗面所ということですか?
「アメリカの家では基本的にベッドルームごとに、
バスルーム(洗面所、トイレ、お風呂)があるので、
家族それぞれが自分専用の洗面所を持っているんですよね。
そういった背景があり、“娘専用洗面”というコンセプトが誕生し、大ヒットした訳です。
そのサイズ感やコンセプトも含め、手頃な価格でインテリアになじみやすいことから、
日本でもとても人気のシリーズです」
Simplice (シンプライス) キッチン水栓![](https://hags-ec.com/column/wp-content/ewww/lazy/placeholder-980x735.png)
![](https://res.cloudinary.com/https-hags-ec-com-column/images/f_auto,q_auto/w_980,h_735/v1614929692/596-BL_image2/596-BL_image2.jpg)
「キッチンでは、シンプルモダンなSimplice(シンプライス)というシリーズですね。
こちらもアメリカで大ヒットした商品です。コストと機能のバランスが非常によく、
インテリアに馴染みやすいカラー展開が人気の理由だと感じています」
―こちらは、日本の家にも設置できるのでしょうか?
「実は、こちらは初めて日本市場のために改良された商品なんです。
水の出る流量や日本の止水栓にそのまま施工できるサイズ感などを日本仕様に改良し、
昨年11月から販売を開始しました」
―どんな点がおすすめですか?
「シンプライスシリーズは、スウィープといわれる機能が充実しています。
スウィープは、”ほうきで履く”という意味が込められているのですが、
放射状に水がでるので、シンクの掃除がしやすいんです。
また水圧が強いので、食洗機に入れる前などのお皿の予洗いにも便利です。
この機能は、まだ国産メーカーにはない機能なので、KOHLER社ならではかなと思います」
今後の展開
ー今後の展開について、計画があれば教えていただけますか?
「一つは、これまでのようなハイクラスなものだけでなく、スタンダード製品にも力を入れていくということです。KOHLERの技術を活かして、より手が届きやすい製品開発を進めていきます」
導入へのコストは一つ大きなポイントですね。ユーザーとしては嬉しい限りです。
ー他にも新しい計画はありますか?
「二つ目は、これからは時代の進化と共にタッチレスの水栓の展開が増えていく予定です。
IOT時代の流れで、音声認識で水やお湯を出すことができる水栓がこれから出てきます。
『OK! KOHLER!お湯を3杯分だして!』といった感じで…(笑)」
未来の世界がもうすぐそこに来ていると思うとワクワクしますね。
「他にも、お料理のプロのキッチンからインスパイアされた
セミプロフェッショナルの水栓も日本で展開していく予定です」
ープロのキッチンからどういったヒントを得ているのでしょうか?
「『プロのシンクは、汚れない!』と言われますが、
引き出し式のスプレーヘッドでホース型になっているので自由自在に動かせて、
掃除やお皿の予洗いがしやすいシリーズです。
日本ではまだ主流になっていない形ですので、楽しみにしていただきたいです」
増井氏メッセージ
「キッチンでお料理をする。毎朝顔を洗う。
日々の当たり前の中に愛着のあるものがあるだけで生活が楽しく豊かになります。
私自身、毎朝KOHLERの水栓とシンクで顔を洗っていますが
毎日必ずニヤニヤするほど嬉しくなるんです。
シンクを通る水まで、愛着湧いてくるくらい…
自分で選んだものを使って生活する楽しさをKOHLERの製品を通して感じていただけると嬉しいです」
まとめ
実は今回の取材中、「輸入住宅が流行った時代にKOHLERの商品がよく取り入れられた」
というお話がでてきた際、もしかして!?と思うことがありました。
私の実家は20年以上前に建てられた輸入住宅。
確か洗面所の蛇口はWハンドルだったな・・・と。
取材後、さっそく母に連絡すると、なんとKOHLER社のものだったのです。
こちら…↓
KOHLER社の魅力としてもでてきた「真鍮無垢削り出し」クラシックデザインのWハンドル。
母によると、「とても丈夫で20年以上経っても不具合なし。
少し磨けばピカピカになってくれて、使えば使うほど愛着が湧いてくる」のだとか。
せっかく家を作るのであれば、こういった細部にこだわりを取り入れると、ちょっとした潤いになりますね。
母が気に入っていた空間は私のお気に入りでもありました。
悩んだ日も、疲れた日も、嬉しかった日もKOHLERにお世話になっていたのだと、
私もいつか家づくりをする日がきた時は、どんな風に組み合わせるか楽しみたいなと思います。
取材協力
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